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これで完璧!スペインワインを語るなら押さえるべき産地11選

本場スペインが誇る!世界に名を馳せるワイン産地11選

スペインワイン入門:まずはこの11産地から!

スペインワインと聞くと、太陽の恵みを受けた力強い赤ワインを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、スペインはフランス、イタリアに次ぐ世界第3位のワイン生産国で、その魅力は驚くほど多様性に富んでいます。北は緑豊かなガリシア地方から、南は灼熱のアンダルシアまで、変化に富んだ気候と土壌、そして土地固有のブドウ品種が、実に多彩なワインを生み出しているのです。

リオハやリベラ・デル・デュエロに代表される長期熟成の赤ワイン、カバとして世界的に知られる高品質なスパークリングワイン、ヘレス地方で造られる唯一無二の酒精強化ワイン・シェリー、そしてリアス・バイシャスやルエダの爽やかな白ワインなど、そのスタイルは枚挙にいとまがありません。

この記事では、日本でもますます注目度が高まっているスペインワインの魅力を深く知るために、必ず押さえておきたい11の有名なワイン産地を厳選してご紹介します。

それぞれの産地の個性、主要なブドウ品種、代表的なワインのスタイル、そしてワイン初心者の方にも役立つ楽しみ方のヒントまで、スペインワインの世界を巡る旅へと皆様をご案内いたします。さあ、奥深く、そして情熱的なスペインワインの扉を開けてみましょう。

リオハ

リオハ(Rioja)は、スペイン北部、エブロ川の流域に広がる、国内で最も名高く、格式あるワイン産地です。

その名は世界中に轟き、特にこの土地の固有品種であるテンプラニーリョから造られる赤ワインは高く評価されています。「スペイン高級ワインの首都」とも称され、古くからの伝統を守りつつ、革新的な技術も取り入れることで、常に高品質なワインを生み出し続けています。

では、なぜリオハがワイン初心者を含む多くの観光客を魅了するのでしょうか。

まず、リオハワインはその基本が理解しやすく、味わいも非常に親しみやすいものが多いため、ワイン入門に最適です。赤ワインが特に有名ですが、それだけでなく、爽やかな白ワイン(ブランコ)や美しい色合いのロゼワイン(ロサード)も造られており、多様な選択肢を楽しめます。

訪れる人々を迎えるのは、どこまでも続くブドウ畑が織りなす起伏に富んだ丘陵地帯、中世の面影を色濃く残す魅力的な村々、そして雄大なエブロ川が作り出す息をのむような美しい風景です。

歴史と文化もリオハの大きな魅力です。地域の中心都市ログローニョでは、地元の美味しいタパス、いわゆる「ピンチョス」をワインと共に味わうことができ、「ワインの首都」として知られるハロには、歴史ある有名なワイナリーが数多く集まっています。

さらに、スペイン語の起源とされるスソとユソの修道院(サン・ミジャン・デ・ラ・コゴジャ、ユネスコ世界遺産)のような、重要な歴史的建造物を訪れることも可能です。

リオハはワインツーリズムの天国でもあります。地域全体で500を超えるワイナリー(ボデガ)が点在し、その規模は壮大な歴史を持つシャトーのようなワイナリーから、温かみのある家族経営の小さなワイナリーまで様々です。

多くのボデガでは、見学ツアーやテイスティングが提供されており、英語での案内も一般的です。中には、広大なブドウ畑の上空を熱気球で遊覧するといった、特別な体験を用意しているワイナリーもあります。

リオハワインの個性を理解する上で、ブドウ品種は欠かせません。赤ワインの主役は何と言ってもテンプラニーリョです。このブドウが、リオハ特有のしっかりとした骨格、熟した赤い果実の風味、そして樽熟成由来のスパイス香をもたらします。

補助品種として、ボディを与えるガルナチャや、色とタンニンを補強するマズエロ、酸味と香りを加えるグラシアーノなどが、絶妙なバランスでブレンドされることもあります。

白ワインにおいては、ヴィウラ(マカベオとも呼ばれます)が主要品種です。このブドウからは、フレッシュでフルーティーな辛口ワインだけでなく、オーク樽で熟成させた、より豊かで複雑な味わいの白ワインも生まれます。

リオハの赤ワイン、特にそのラベルに注目すると、この地域のワイン造りの特徴がより深く理解できます。リオハでは伝統的にオーク樽を用いた熟成が行われ、その期間がワインのスタイルを大きく左右します。

ラベルに記載された熟成区分を見れば、そのワインがどのような特徴を持つかを知る手がかりになります。「ホベン(Joven)」または単に「リオハ」と記されているものは、最も若いタイプで、樽熟成を行わないか、行ってもごく短期間です。

フレッシュな果実味が前面に出た、気軽に楽しめるスタイルで、日常的な食事やタパスに最適です。「クリアンサ(Crianza)」は、最低2年間の熟成(うち最低1年はオーク樽)が義務付けられています。

果実味と樽由来の風味(バニラ香など)が見事に調和し、バランスの良さが魅力です。リオハで最も人気があり、品質と価格のバランスにも優れています。

「レセルバ(Reserva)」は、最低3年間の熟成(うち最低1年はオーク樽)を経ています。より高品質なブドウが用いられ、味わいは滑らかさと複雑さを増し、熟した果実の風味に加えて、スパイスやなめし革、ドライフルーツのような熟成香が感じられます。

「グラン・レセルバ(Gran Reserva)」は、特に優れた収穫年の、最良のブドウのみから造られるリオハの最高峰です。最低5年間の熟成(うち最低2年はオーク樽)が要求され、長い熟成によって育まれた、比類なきエレガンスと複雑さ、深遠な味わいを持ち、熟成によるスパイス、タバコ、なめし革などの香りが豊かに広がります。

リオハワインの味わいを具体的に表現すると、赤ワインではチェリーやラズベリー、プラムといった赤い果実のアロマに、オーク樽熟成がもたらすバニラ、ディル(ハーブの一種)、クローブ(丁子)、時にはココナッツのような甘くスパイシーな香りが溶け込んでいます。

クリアンサからレセルバ、グラン・レセルバへと熟成が進むにつれて、タンニンは丸みを帯びて口当たりは滑らかになり、なめし革やタバコ、森の下草のような、より複雑で奥行きのある風味が現れてきます。

ボディは中程度からしっかりとしたフルボディのものが中心です。一方、白ワインは、若いものはレモンやライムのような柑橘系果実や青リンゴの爽やかなアロマが特徴ですが、オーク樽で熟成されたものは、よりリッチでクリーミーな質感となり、ローストしたナッツや蜂蜜のような熟成香を帯びることもあります。

リオハを楽しむためのアドバイスです。まずは「クリアンサ」の赤ワインから試してみてはいかがでしょうか。手頃な価格でありながら、リオハらしい果実味と樽香のバランスの取れた味わいを体験できます。

現地では、炭火で焼いた仔羊の肉(チュレティージャス)や、豆とチョリソの煮込み料理など、地元の伝統料理と合わせるのが定番です。

そして何より、ぜひワイナリー(ボデガ)を訪れてみてください。実際にワインが造られる現場を見学し、様々なタイプのワインを試飲することで、きっとあなたのお気に入りの一本が見つかるはずです。

リベラ・デル・デュエロ

リオハと並び称される、もう一つの偉大な赤ワインの銘醸地、リベラ・デル・デュエロ(Ribera del Duero)。ここは、力強く、凝縮感のある高品質な赤ワインで世界中の愛好家を魅了する地域です。

スペイン北部の内陸、カスティーリャ・イ・レオン州に位置し、首都マドリードから北へ車で約2時間、壮大なドゥエロ川(ポルトガルではドウロ川として知られ、ポートワインを生む川)に沿って広がっています。

特筆すべきはその地形です。標高700メートルから時には1000メートルにも達する高地の台地にブドウ畑が点在し、この厳しい自然環境がワインに唯一無二の個性をもたらしています。

ワイン造りの歴史自体は古代ローマ時代まで遡りますが、この地域がスペインの原産地呼称(D.O.)として認定され、世界的な名声を得るようになったのは1982年以降と、比較的最近のことです。

リベラ・デル・デュエロへの旅は、リオハとはまた異なる、感動的なワイン体験を約束します。まず、ここで生まれるワインは、しっかりとした骨格と豊かな果実味、力強いタンニン(渋み)を持つ、濃厚なスタイルの赤ワインが中心です。

もしあなたが、カベルネ・ソーヴィニヨンのような飲みごたえのある赤ワインがお好きなら、きっとリベラ・デル・デュエロのワインに魅了されるでしょう。

風景もまた格別です。リオハの穏やかな丘陵地帯とは異なり、ここは広大な台地が広がり、乾燥した厳しい気候が、どこか荒涼としながらも雄大な、印象的な景観を作り出しています。

歴史的な見どころも豊富で、特にペニャフィエルの町を見下ろす丘の上に建つ壮麗な城塞は必見です。この城の中には、なんとワイン博物館も設けられています。

アラダ・デ・デュエロのような主要な町では、中世から続く伝統的な地下のワインセラー(ボデガス・スブテラネアス)が今も残り、見学できる場所もあります。

ワインツーリズムも活発で、D.O.認定当初はわずか9軒だったワイナリーが、現在では300軒以上に増え、それぞれが品質を追求したワイン造りを行っています。

最新鋭の設備を誇るモダンなワイナリーから、代々続く家族経営の伝統的なボデガまで、多様な訪問先があり、多くがツアーやテイスティングを温かく歓迎してくれます。

この地のワインを語る上で欠かせないのが、主役となるブドウ品種、テンプラニーリョです。リオハと同じ品種ですが、リベラ・デル・デュエロでは「ティント・フィノ」または「ティンタ・デル・パイス」という固有の名称で呼ばれます。

これは単なる名前の違いではありません。この地の厳しい気候、つまり暑く乾燥した夏と氷点下にもなる厳しい冬、そして昼夜の大きな寒暖差、さらに高い標高といったテロワール(生育環境)に長年かけて適応した結果、この地のテンプラニーリョは果皮が厚くなり、色が濃く、タンニンが豊富で、非常に凝縮した風味を持つブドウへと進化しました。

このティント・フィノが、栽培面積の約95%を占め、リベラ・デル・デュエロのワインの魂となっています。最高級のワインはティント・フィノ100%で造られることが多いですが、規定ではカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、マルベックといった国際品種を少量ブレンドすることも認められており、ワインにさらなる骨格や複雑味を与えるために用いられることがあります。

ごく少量ですが、ガルナチャ種からロゼワインも造られます。白ブドウではアルビロ・マヨールが主要品種ですが、この地は圧倒的に赤ワインが主役です。

ワインを選ぶ際には、リオハと同様に、ラベルに記された熟成期間を示す表示が重要な手がかりとなります。ただし、同じ区分でも、リベラ・デル・デュエロのワインはより力強いスタイルになる傾向があります。

「ロブレ(Roble)」または「コセチャ(Cosecha)」は最も若いタイプで、通常オーク樽での熟成は短期間(ロブレの場合、12ヶ月未満)か、全く行われません(コセチャの場合)。フレッシュな黒系果実の風味と、わずかなスパイス感が特徴で、この地域のワインを知る第一歩として最適です。

「クリアンサ(Crianza)」は、最低でも2年間熟成され、そのうち1年以上はオーク樽で寝かされます。しっかりとした骨格を持ち、濃縮された果実味と、樽熟成(多くはフレンチオークが使われ、トーストやスパイスの香りが加わります)による風味がバランス良くまとまっています。

「レセルバ(Reserva)」は、より良質なブドウから造られ、最低3年間(うち1年以上はオーク樽)熟成されます。複雑で力強く、凝縮した黒系果実の風味と、熟成によって滑らかになったタンニン、そしてオーク由来の香りが深く溶け合い、さらなる熟成のポテンシャルも秘めています。

「グラン・レセルバ(Gran Reserva)」は、特に優れた収穫年の、選び抜かれた最高のブドウからのみ生産される、まさにトップキュヴェです。最低5年間(うち2年以上はオーク樽)という長い熟成期間を経て、非常に濃密で複雑、そして驚くほど長い余韻を持つ、長期熟成タイプの偉大なワインとなります。

では、その味わいは具体的にどのようなものでしょうか。リオハワインがしばしば赤い果実(イチゴやチェリー)の香りを特徴とするのに対し、リベラ・デル・デュエロの赤ワインは、より濃く、力強い、黒い果実(ブラックベリー、カシス、ダークプラム)の香りが支配的です。

口に含むと、その豊満なボディとしっかりとした骨格、存在感のあるタンニンを感じるでしょう。しかし、高地ならではの昼夜の寒暖差がブドウに豊かな酸味をもたらすため、重々しいだけでなく、しっかりとした酸が全体のバランスを引き締め、フレッシュさも保っています。

フレンチオーク樽由来の、トーストやバニラ、ビターチョコレート、葉巻のようなスパイシーで香ばしいニュアンスも、濃厚な果実味と複雑に絡み合い、深い奥行きを与えています。

もしあなたがしっかりとした飲みごたえのある赤ワイン、例えばボルドーのメドック地区のワインや、カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨンなどがお好きであれば、きっとリベラ・デル・デュエロのワインも気に入るはずです。

まずは「ロブレ」や「クリアンサ」から試してみて、この地域の力強いスタイルに触れてみるのが良いでしょう。そして、このワインの真価を最もよく知る方法は、地元の料理と合わせることです。

特に有名なのが「レチャソ・アサード」と呼ばれる、仔羊の丸焼きです。香ばしく焼き上げられたジューシーな肉の旨味と、ワインの力強い果実味、しっかりとしたタンニンが見事に調和します。

その他、グリルした牛肉やジビエ料理、煮込み料理など、濃厚な味わいの肉料理との相性は抜群です。旅の拠点としては、ペニャフィエルやアラダ・デ・デュエロの町が便利です。周辺のワイナリーを訪ね、テイスティングを楽しみながら、この土地ならではの力強いワインの世界に深く浸ってみてください。

プリオラート

カタルーニャ州の秘宝、プリオラート(Priorat)。バルセロナから南西へ車を走らせると現れるこの地は、スペインで最も凝縮感があり、力強く、そして世界的に高い評価を受ける赤ワインを生み出す、小さくとも偉大なワイン産地です。

プリオラートが訪れる者を圧倒するのは、まずその劇的なまでに険しい山々の景観、そして他に類を見ない独特の土壌です。この地は、スペインのワイン法における最高格付けであるDOQ(Denominació d’Origen Qualificada)を、広大なリオハと共にスペインでわずか二つしか持たない地域の一つとして認定されています。

これは、プリオラートのワインが、そのユニークな土地(テロワール)に深く根ざした、並外れた品質を持っていることの証左と言えるでしょう。

プリオラートの真髄を理解するには、まずその土地を知る必要があります。この地域を特徴づけるのは、「リコレリャ(Llicorella)」と呼ばれる、黒みがかった脆い粘板岩と石英が混じり合った特殊な土壌です。

この土壌は非常に痩せており、水分を保持する力が乏しいため、ブドウの樹は水分と養分を求めて、岩盤の隙間を縫うように地中深くへと根を伸ばさなければなりません。

この生存競争とも言える過酷な環境こそが、ブドウの収量を自然に極限まで抑え、結果として一粒一粒に風味が凝縮した、力強くミネラル感に溢れるワインを生み出すのです。

そして、目を奪われるのは、息をのむほど急峻な斜面(地元では「コステルス」と呼ばれます)に、まるでしがみつくように存在するブドウ畑の姿です。

あまりの急勾配ゆえに、多くは人の手によって石を積み上げられた古い段々畑(テラス)に植えられています。このような畑での作業は機械化がほぼ不可能であり、今日でもその多くが過酷な手作業に頼っています。この困難な労働が、プリオラートワインの希少性と価値を高めている要因の一つでもあります。

この厳しい土地には、驚くほど樹齢の古いブドウ樹が多く残っています。特に、この地の伝統品種であるガルナッチャ(グルナッシュ)とカリニェナ(カリニャン)には、樹齢100年を超える古木も存在します。

これらの古木は、自然に収量が少なくなる代わりに、非常に複雑で深みのある風味をワインにもたらします。こうしたブドウ畑は、グラタロプス、ポレラ、ベルムントといった、石造りの家々が並ぶ魅力的な古い村々を取り囲むように広がっています。

また、この地域の名前の由来ともなった、歴史あるエスカラデイのカルトゥジオ会修道院の荘厳な遺跡を訪れることも、プリオラートの歴史を感じる上で欠かせません。

プリオラートのワイン造りは、この土地への深い敬意に基づいています。赤ワインの核心となるのは、やはり伝統品種であるガルナッチャとカリニェナの組み合わせです。

ガルナッチャがワインに豊かな果実味、アルコール由来の温かみ、ふくよかなボディを与える一方、カリニェナはしっかりとした酸味、豊富なタンニン(渋み)、濃い色合い、そして土のようなニュアンスを加え、ワインに骨格と長期熟成能力を与えます。

最高のプリオラートワインの多くは、これらの品種、特に古木から収穫されたブドウを見事にブレンドして造られます。近年では、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローといった国際品種も補助的に栽培され、ブレンドに用いられることで、ワインにさらなる複雑さや現代的な洗練さを加えています。

赤ワインが圧倒的な主役ですが、少量ながら白ワインも生産されており、主にガルナッチャ・ブランカやマカベオといった品種から、豊かな質感とリコレリャ土壌由来のミネラル感が感じられる、興味深いワインが生まれています。

ワインを選ぶ際、リオハなどで見られる「クリアンサ」や「レセルバ」といった熟成期間に基づく表示は、プリオラートではそれほど重視されません。

代わりに、この地域ではワインの「出自」、つまりどの土地で育ったブドウから造られたかをより重要視する独自の品質分類システムが導入されています。

特定の村名を冠した「ビ・デ・ビラ(Vi de Vila)」や、特に優れた単一畑を示す「ビーニャ・クラシフィカーダ(Vinya Classificada)」、そしてその最高峰である「グラン・ビーニャ・クラシフィカーダ(Gran Vinya Classificada)」といった区分は、畑ごとのテロワールの個性を最大限に表現しようという、生産者たちの強い意志の表れです。

ワイン初心者の方にとっては、これらの詳細を覚える必要はありませんが、DOQという最高格付けとこれらの分類が、プリオラートワインの並外れた品質と、その土地ならではの個性を保証するものだと理解しておけば良いでしょう。

では、プリオラートワインは実際にどのような味わいなのでしょうか。まず、グラスに注がれたワインの、インクのように深く濃い色合いに驚くことでしょう。

香りには、ブラックベリー、カシス、ダークプラム、ドライフィグ(乾燥イチジク)のような、凝縮した黒系果実のアロマが力強く立ち上ります。

そして、その果実味と並んで、あるいはそれ以上に強く感じられるのが、プリオラートの最大の特徴である、独特の「ミネラル感」です。これはしばしば、雨に濡れたスレート(粘板岩)、鉛筆の芯(グラファイト)、火打石、あるいはタールのような香りと表現され、リコレリャ土壌からワインへと溶け込んだ、複雑で無機的なニュアンスです。

味わいは非常に濃厚で、フルボディ。アルコール度数も高く、14%を超えるものが一般的ですが、険しい環境で育ったブドウ由来のしっかりとした酸味が全体を引き締め、力強さの中にも驚くほどのバランスと活気を与えています。

タンニンも豊富で力強いですが、高品質なワインでは熟成とともに滑らかになり、ベルベットのような質感へと変化していきます。非常に複雑で、長い余韻を持ち、適切に保管すれば10年、20年、あるいはそれ以上熟成し、さらに奥深い風味へと発展する、卓越したポテンシャルを秘めています。

これからプリオラートワインを試される方は、まず、その力強さと凝縮感、そして希少性から、価格は比較的高めであることを念頭に置いてください。

初めてであれば、ボトルを数人でシェアして、そのユニークな個性をじっくりと味わうのが良いかもしれません。味わう際には、ぜひ他のワインにはない、リコレリャ土壌由来のミネラル感を意識してみてください。

それがプリオラートを唯一無二の存在たらしめている鍵です。食事と合わせるなら、ワインの力強さに負けない、風味豊かな料理が最適です。

ジビエ(特にイノシシの煮込みなど)、牛肉や羊肉のグリルや煮込み、濃厚な味わいのシチュー、熟成したハードタイプのチーズなどが素晴らしい相性を見せるでしょう。

プリオラートへの訪問は、バルセロナや近郊のタラゴナから日帰りも可能ですが、できれば一泊して、その険しくも美しい風景と、土地に根ざしたワイン造りに触れることをお勧めします。ワイナリー訪問は小規模なところが多いため、事前の予約が賢明です。プリオラートは、ただワインを飲むだけでなく、その土地の魂を感じることができる、真に特別な場所なのです。

リアス・バイシャス

これまでの力強い赤ワインとは趣を異にする、爽やかな魅力に満ちた産地、リアス・バイシャス(Rías Baixas)。

スペイン北西端、緑豊かなガリシア州に位置するこの地は、「グリーン・スペイン」とも呼ばれ、その名の通り、大西洋からの湿った風が育む瑞々しい緑の風景が広がっています。

ここはスペインを代表する高品質な白ワインの故郷で、特にその土地固有のブドウ品種から造られる、香り高くキレのある白ワインで世界的に知られています。

灼熱の太陽と乾燥した大地といったスペインの典型的なイメージとは全く異なる、涼やかで潤いのある表情を見せてくれるのが、リアス・バイシャスの大きな魅力です。

この地のワイン造りを特徴づけているのは、まず大西洋の影響を強く受けた冷涼な海洋性気候です。年間を通じて降水量が多く湿度も高いため、ブドウ栽培には工夫が凝らされています。

畑でよく目にするのは、「パラス(Parras)」と呼ばれる、花崗岩の柱で高く仕立てられた独特の棚仕立てのブドウ棚です。

これは、地面からブドウの房を高く離し、風通しを良くすることで、湿気による病害を防ぐための、この地ならではの伝統的な知恵なのです。

そして、リアス・バイシャスという名前が示す通り、この地域は「下の入り江(リアス)」が複雑に入り組んだ美しい海岸線を持っています。

フィヨルドにも似たリアス式海岸が織りなす景観は息をのむほど美しく、白砂のビーチや、国立公園にも指定されているシエス諸島のような美しい島々も点在します。

この海と共に生きる土地は、また世界有数のシーフードの宝庫でもあります。新鮮な魚介類、特にカキ、ムール貝、アサリ、ホタテ、そして名物のタコ(プルポ)などは絶品で、リアス・バイシャスを訪れる大きな楽しみの一つです。

カンバドス(「アルバリーニョの首都」とも呼ばれます)やポンテベドラといった歴史ある港町を散策し、地元のバルで新鮮な海の幸と共に地元のワインを味わうのは、まさに至福のひとときと言えるでしょう。

リアス・バイシャス・ワインルートを辿れば、緑の丘陵に点在するワイナリーを訪ねることもできます。多くは家族経営の小規模なワイナリーで、温かいもてなしと共に、この土地ならではのワイン造りに触れることができるでしょう。

さて、そのワインですが、リアス・バイシャスでは一つのブドウ品種が絶対的な主役を務めます。それが、スペイン固有の白ブドウ品種の中で最も高貴で、国際的にも高い評価を得ている「アルバリーニョ」です。

この地で栽培されるブドウの実に95%以上がアルバリーニョであり、まさにこの品種がリアス・バイシャスのワインの個性を決定づけていると言っても過言ではありません。

ロウレイロやトレイシャドゥーラといった他の地ブドウ品種も存在し、特定の地区(例えばオ・ロサル地区)ではブレンドに用いられることもありますが、基本的にはアルバリーニョがこの地のワインの代名詞です。

リアス・バイシャスで造られるワインの典型的なスタイルは、アルバリーニョ種100%から造られる、辛口でアロマティックな白ワインです。

その最大の特徴は、活き活きとした酸味と豊かな香りです。多くの場合、ワインはステンレスタンクで発酵・熟成され、オーク樽は使用せずに若いうちに瓶詰めされます。

これは、アルバリーニョ種が持つ、華やかな香りとフレッシュな果実味、そしてキレの良い酸味を最大限に活かすための手法です。

近年では、より複雑味やテクスチャー(口中での質感)を求める生産者が、澱(発酵を終えた酵母)と共に熟成させるシュール・リー製法や、オーク樽を控えめに用いる試みも行っていますが、やはり基本はクリーンでフレッシュなスタイルです。

赤ワインやロゼワインもごく少量生産されていますが、地元以外でお目にかかることは稀で、リアス・バイシャスは名実ともに「白ワイン王国」なのです。

では、その味わいはどのようなものでしょうか。グラスに注がれたアルバリーニョは、まずその輝きのある色合いと、グラスから立ち上る華やかな香りで魅了します。

グレープフルーツやライム、レモンゼスト(レモンの皮)といった爽快な柑橘系の香りに、アプリコットやピーチ、ネクタリンのような瑞々しいストーンフルーツのアロマ、時にはスイカズラのような白い花のニュアンスも感じられます。

そして味わいの決め手となるのが、その豊富な酸味です。口に含むと、シャープでキレの良い酸が味覚を刺激し、非常に爽快な印象を与えます。

さらに、海に近い畑で育ったアルバリーニョには、しばしば「塩味」や「ミネラル感」と表現される、独特の風味が感じられます。これはまるで、潮風をかすかに含んだようなニュアンスで、ワインに複雑さと奥行きを与えています。

ボディは軽やかから中程度で、後味はあくまでクリーンでドライ。時に感じる、柑橘の皮のような僅かな苦みが、全体の味わいを引き締めるアクセントとなっています。

ワイン初心者の方にとって、リアス・バイシャスのアルバリーニョは、スペインの高品質な白ワインを知るための、またとない入門となるでしょう。

もし、ソーヴィニヨン・ブランや、樽熟成させていないシャルドネのような、キリッとした白ワインがお好きなら、きっとアルバリーニョも気に入るはずです。

そして、このワインを楽しむ上で絶対に外せないのが、地元ガリシアの新鮮なシーフードとの組み合わせです。グリルした白身魚、カキやムール貝、エビやカニ、そして名物のタコのガリシア風(プルポ・ア・ラ・ガジェガ)など、海の幸との相性はまさに完璧と言えます。

ワインをキリッと冷やして、太陽の下で、あるいは美味しいシーフードと共に味わえば、その爽やかさが一層引き立ちます。力強い赤ワインのイメージが強いスペインですが、リアス・バイシャスのアルバリーニョは、そのイメージを心地よく覆し、スペインワインの多様性と奥深さを教えてくれる、魅力的な一本となるでしょう。

ヘレス

スペイン南部に輝くアンダルシア州。その一角に、ヘレス・デ・ラ・フロンテラ、サンルカール・デ・バラメダ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアという3つの町が形成する「シェリー・トライアングル」と呼ばれる地域があります。

こここそが、世界中で愛されるユニークな酒精強化ワイン、「シェリー」が生まれた土地、ヘレス(Jerez)です。酒精強化ワインとは、醸造過程でアルコール(通常はブドウ由来のスピリッツ)を添加し、アルコール度数を高めたワインのこと。シェリーは、その複雑な製造方法と驚くほど多様なスタイルで、他のワインとは一線を画す、特別な存在感を放っています。

ヘレスのワイン造りを支えるのは、この土地ならではの自然環境です。まず特筆すべきは、「アルバリサ」と呼ばれる真っ白な石灰質の土壌。

この土壌は、アンダルシアの強い日差しの中でも水分を保持する能力が高く、また太陽光を反射してブドウの成熟を助けるという、シェリーの主要品種であるパロミノ種の栽培に理想的な特性を持っています。温暖で日照に恵まれた気候も、ブドウを完熟させ、シェリー独特の風味の基礎を築きます。

シェリーの原料となるブドウは、主に3種類です。辛口シェリーのほぼ全てに使われるのが「パロミノ」種。アルバリサ土壌との相性が抜群で、ブドウ自体は比較的ニュートラルな風味ですが、それがかえって、後述する独特な熟成方法によって生まれる複雑な香りと味わいを引き立てます。

一方、極甘口のシェリーには、「ペドロ・ヒメネス(PX)」種や「モスカテル」種が用いられます。これらのブドウは収穫後、太陽の下で天日干しされ、レーズンのように糖分が凝縮されます。この凝縮された甘みが、濃厚で甘美なデザートワインの源となるのです。

シェリーの製造方法は非常にユニークです。「ソレラ・システム」と呼ばれる伝統的な熟成・ブレンド方法は、シェリーを特徴づける最も重要な要素の一つです。

これは、様々な熟成年数のワインが入った樽を何段にも積み重ね、一番下の最も古い樽(ソレラ)から瓶詰めする分だけワインを抜き取り、空いたスペースにすぐ上の段の樽(クリアデラ)から若いワインを補充し、それを順次繰り返していくという、動的なシステムです。

これにより、毎年安定した品質のシェリーを出荷できるだけでなく、長い年月をかけてワインがブレンドされ、他に類を見ない深みと複雑さが生まれます。

さらに、辛口シェリーの一部(フィノ、マンサニージャ)の熟成には、「フロール」と呼ばれる特殊な産膜酵母が欠かせません。樽の中のワインの表面に自然発生するこの白い酵母膜は、ワインを空気から守り酸化を防ぐと同時に、ワインに独特の香ばしい、パンやナッツ、ハーブのような香りを与えます。

こうしたユニークな製法から、シェリーは驚くほど多様なスタイルを生み出します。辛口から極甘口まで、その спектрは広大です。初心者の方にも分かりやすいように、代表的なスタイルをご紹介しましょう。

まず、最もドライで軽快なタイプが「フィノ」と「マンサニージャ」です。これらはフロールの下で熟成され、色は淡く、キリッとしたシャープな辛口。アーモンドやハーブ、パン生地のような香りが特徴です。

特にマンサニージャは、海沿いの町サンルカール・デ・バラメダで熟成されるため、潮風を思わせるかすかな塩味が感じられることもあります。どちらもよく冷やして、食前酒やタパスと共に楽しむのが定番です。世界的に有名なフィノのブランドとしては、「ティオ・ペペ(Tío Pepe)」(ゴンサレス・ビアス社)が挙げられます。

次に、酸化熟成によって生まれる、より複雑で豊かな風味を持つ辛口タイプです。「アモンティリャード」は、フィノとして熟成を開始した後、フロールが消え酸化熟成が進んだもので、琥珀色をし、ヘーゼルナッツのような香ばしい香りを持ちます。

「オロロソ」は、最初から酸化熟成させたタイプで、色はより濃く、クルミやカラメルのような豊かで力強い風味を持ちます。これらは複雑な風味を持ち、スープや肉料理、熟成チーズなどとも良く合います。

そして、甘口シェリーの代表格が「ペドロ・ヒメネス(PX)」です。天日干ししたPX種から造られ、色は黒に近く、シロップのように濃厚。レーズンやイチジク、チョコレートを思わせる、凝縮された甘さが魅力です。デザートとして、あるいはバニラアイスにかけて楽しむのも人気です。

これら以外にも、アモンティリャードとオロロソの中間的な特徴を持つ希少な「パロ・コルタド」や、オロロソにPXなどをブレンドして造られる甘口の「クリーム」シェリーなど、多種多様なスタイルが存在します。

ヘレス地方を訪れる最大の楽しみの一つが、「ボデガ」と呼ばれるシェリーの醸造所訪問です。多くは歴史的な重みを感じさせる壮麗な建物で、まるで大聖堂のような静謐なセラー(熟成庫)が広がっています。

ガイド付きツアーに参加すれば、ソレラ・システムやフロールの役割など、シェリーのユニークな製造工程を間近に見学し、学ぶことができます。そしてツアーの最後には、様々なスタイルのシェリーを試飲する機会があり、その味わいの多様性にきっと驚かれることでしょう。

ヘレスの町には、世界的に有名な「ゴンサレス・ビアス(González Byass)」、「オズボーン(Bodegas Osborne)」(その雄牛のシルエットはあまりにも有名です)、あるいは非常に古いシェリーを専門とする「ボデガス・トラディシオン(Bodegas Tradición)」など、訪れる価値のあるボデガが数多くあります。

シェリー・ワインルートを巡れば、ワインツーリズムだけでなく、歴史的な町並みや美しい風景も楽しむことができます。そして忘れてはならないのが、ヘレスの活気あふれる文化です。

情熱的なフラメンコの響き、シェリーと最高の相性を見せるタパス料理の数々、そして優雅なアンダルシア馬のショーなど、五感を刺激する体験が待っています。地元の人々の温かいもてなしも、旅の思い出をより一層豊かなものにしてくれるでしょう。

日本でもティオ・ペペをはじめとする様々なシェリーが手に入りますが、ぜひ一度、本場ヘレスの空気の中で、その多様な魅力を体験してみてください。食前、食中、食後と、あらゆるシーンで楽しめるシェリーの世界は、きっとあなたのワイン観を広げてくれるはずです。

ペネデス

カタルーニャ州、バルセロナの南西に広がるペネデス(Penedès)は、スペインを代表するスパークリングワイン「カバ」の故郷として世界的に有名ですが、同時に高品質なスティルワイン(非発泡性ワイン)の生産地としても注目されています。

バルセロナからのアクセスが非常に良いため、ワイン初心者の方でも気軽に訪れることができる、魅力あふれるワイン産地です。

ペネデスが特別な理由は、まず何と言っても「カバ(Cava)」の存在です。カバは、シャンパーニュと同じ「トラディショナル・メソッド(伝統製法)」を用いて造られる、スペイン最高峰のスパークリングワインです。瓶内で二次発酵を行うこの製法により、きめ細かく持続性のある泡と、複雑な風味が生まれます。

ペネデス地方、特にサン・サドゥルニ・ダノイアという町とその周辺は、スペイン全体のカバ生産量の約90%を占める、まさにカバの中心地なのです。

また、ペネデスは地理的な多様性も特徴です。地中海に近い温暖な沿岸部、内陸の平野部、そして標高の高い山間部と、異なる気候帯が存在するため、カバだけでなく、非常に幅広いスタイルのスティルワインが生産されています。

カバ造りの主役となるのは、伝統的に使われてきた3つの土着の白ブドウ品種です。「マカベオ(ビウラとも呼ばれます)」は、ワインにフローラルな香りと、熟成によって生まれる複雑味を与えます。

「チャレッロ」はこの地域の個性を最もよく表す品種で、しっかりとした骨格、豊かな酸味、そして独特のハーブやミネラルのニュアンスをもたらし、長期熟成にも耐えうるポテンシャルを持ちます。

「パレリャーダ」は、主に標高の高い冷涼な畑で栽培され、ワインに繊細さ、フレッシュさ、リンゴのようなフルーティーな香りを与えます。

この3品種のブレンド比率によって、カバのスタイルは様々に変化します。近年では、国際品種であるシャルドネや、ロゼ・カバ(カバ・ロサット)を造るためにピノ・ノワールやトレパット、ガルナッチャといった黒ブドウ品種も使用が認められています。

一方、スティルワインにおいては、カバにも使われるチャレッロ種が、辛口白ワインとしても素晴らしい品質を発揮し、近年非常に高い評価を得ています。

そのほか、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランといった国際品種の白ブドウや、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・ノワール、そしてテンプラニーリョ(地元ではウル・デ・リェブレと呼ばれます)などの国際的な赤ブドウ品種も広く栽培されています。

また、スモイやトレパットといったカタルーニャ固有の赤ブドウ品種も、地域の個性を表現するワインとして注目されています。

ペネデスで出会えるワインの種類は実に多彩です。まずカバですが、これはスペインを代表する、シャンパーニュと同じ伝統製法で造られたスパークリングワインです。

味わいの甘辛度によっていくつかのタイプに分類されますが、初心者の方にはまず「ブリュット(Brut)」をお勧めします。これは辛口で、食事にも合わせやすく、最も一般的なスタイルです。

さらに辛口がお好みなら、補糖(ドサージュ)を一切行わない「ブリュット・ナトゥレ(Brut Nature)」も試す価値があります。美しい色合いのロゼ・カバも人気があります。

スティルワイン(スペイン語ではVins Tranquilsと呼ばれます)も忘れてはなりません。特にチャレッロ種から造られる辛口白ワインは、爽やかな柑橘系の香りから、熟成を経てナッツやハーブのような複雑な風味を持つものまで、多様な表情を見せます。

ロゼワインもフレッシュでフルーティーなものが多く、赤ワインも軽快なタイプから、しっかりとした骨格を持つものまで、幅広い選択肢があります。ペネデスは常に新しい試みが行われる、革新的な地域でもあるのです。

ペネデス地方は、バルセロナから電車や車で1時間以内というアクセスの良さが魅力です。日帰り旅行も十分に可能で、多くのワイナリーが観光客向けのツアーやテイスティングを実施しています。

「カバの首都」と呼ばれるサン・サドゥルニ・ダノイアには、フレシネやコドルニウといった世界的に有名な大手カバメーカーの壮大なセラーがあり、見学ツアーは圧巻です。

一方で、家族経営の小規模なワイナリーも数多く点在し、よりパーソナルな体験を求める方にもおすすめです。地域の中心都市であるビラフランカ・デル・ペネデスには、カタルーニャのワイン文化を学べる博物館(VINSEUM)もあります。

地中海の影響を受けた穏やかな気候の中、なだらかな丘陵に広がるブドウ畑の風景を眺めながら、ワイナリー巡りを楽しむことができます。

では、ペネデスのワインはどのような味わいなのでしょうか。

カバは、まずそのきめ細かく爽快な泡立ちが特徴です。香りは、青リンゴやレモン、ライムといった柑橘系のフレッシュなアロマが主体ですが、熟成期間の長いレセルバ(Reserva)やグラン・レセルバ(Gran Reserva)といった上級クラスのカバになると、トーストやアーモンド、ブリオッシュのような香ばしい熟成香が現れ、より複雑な味わいとなります。

一般的に、イタリアのプロセッコなどに比べると辛口で、しっかりとした酸味を感じるでしょう。スティルワインでは、特にチャレッロ種の白ワインが個性的です。

柑橘系の香りに加え、白い果実、フェンネルのようなハーブ香、あるいは熟成によってナッツのようなニュアンスが出てくることもあります。しっかりとした酸とミネラル感、豊かなテクスチャー(口中での質感)を持ち、熟成能力も備えています。

カバは、シャンパーニュと同じ伝統製法で造られていながら、比較的手頃な価格で楽しめるため、本格的なスパークリングワイン入門に最適です。

食前酒としてはもちろん、タパスやサラダ、シーフード、鶏肉料理など、幅広い食事と合わせることができる万能選手でもあります。

また、ペネデスを訪れた際には、ぜひスティルワイン、特にチャレッロ種の白ワインも試してみてください。この地域のテロワールを感じられる、素晴らしい発見があるはずです。

バルセロナからのアクセスの良さは、スペインのワイン産地の中でも特筆すべき点で、気軽に訪れて本場のカバやワインを体験できるのは大きな魅力です。日本国内のワインショップでも、カバやペネデスのワインは比較的手に入りやすいので、まずは試してみてはいかがでしょうか。

ルエダ

スペインのワインというと、力強い赤ワインを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、国土の中央部、マドリードの北西に広がるカスティーリャ・イ・レオン州には、スペイン最高峰の白ワインを生み出す銘醸地、ルエダ(Rueda)があります。

ここは、標高700メートルから800メートルに達する広大な高原地帯(メセタ)に位置し、スペインの他の地域とは異なる独特の気候風土が、特別な白ワインを育んでいます。リオハやリベラ・デル・デュエロのような赤ワイン産地とはまた違った、スペインワインの多様性を発見できる、魅力的な地域です。

ルエダのワインが特別な理由は、まずその気候にあります。内陸にあるため、夏は非常に暑く乾燥し、冬は厳しい寒さに見舞われる典型的な大陸性気候です。

しかし、最も重要なのは、昼夜の寒暖差が非常に大きいことです。日中の強い日差しでブドウは糖度を高めますが、夜間の冷え込みによって酸味がしっかりと保たれます。この寒暖差こそが、ルエダのワインにフレッシュで生き生きとした酸味と、豊かなアロマをもたらす秘密なのです。

そして、ルエダを語る上で欠かせないのが、この土地固有の白ブドウ品種「ベルデホ」です。一説には11世紀頃からこの地で栽培されてきたとも言われるベルデホは、まさにルエダの魂とも言える存在です。

水はけの良い砂利質の土壌と、厳しい気候に見事に適応し、他にはない個性的なワインを生み出します。その品質の高さと伝統が認められ、ルエダは1980年にカスティーリャ・イ・レオン州で最初に白ワインの原産地呼称(D.O.)に認定されました。

ルエダで栽培されているブドウの約85%はベルデホですが、近年では世界的に人気の高い「ソーヴィニヨン・ブラン」も重要な品種として栽培されており、この品種ならではの爽やかなワインも造られています。

その他、ビウラ(マカベオ)などの品種も許可されていますが、やはりルエダを代表するのはベルデホとソーヴィニヨン・ブランと言えるでしょう。

ルエダのワインを選ぶ際には、ラベルの表示が参考になります。「ルエダ・ベルデホ」と書かれていれば、それはベルデホ種を85%以上(多くは100%)使用した、この地域を代表するワインです。

ベルデホ種ならではの豊かな香りと味わいが楽しめます。「ルエダ」という表示は、ベルデホ種を50%以上使用したブレンドワインであることを示します。「ルエダ・ソーヴィニヨン」は、ソーヴィニヨン・ブラン種を85%以上使用したワインです。

これらのワインの多くは、ブドウ本来のフレッシュな果実味と酸味、華やかな香りを最大限に引き出すため、オーク樽を使わずにステンレスタンクで低温発酵させ、若いうちに瓶詰めされます。

そのため、購入したら早めに飲むのがおすすめです。しかし、近年では、より複雑味と奥行きを求めて、澱(おり)と共に熟成させる「シュール・リー」製法を用いたり、オーク樽で発酵・熟成させたりする高品質なワインも増えています。

ルエダ地方への訪問は、マドリードや近郊の都市バリャドリードから比較的容易です。「ルエダ・ワインルート」には多くのワイナリーが加盟しており、最新設備を備えた近代的な醸造所から、何世紀もの歴史を持つ地下セラー(ボデガ・スブテラネア)を持つ伝統的なワイナリーまで、様々な訪問先があります。

広大なメセタに広がるブドウ畑と、どこまでも続く青い空が織りなす風景は、海岸部や山岳地帯とは異なる、スペイン中央部ならではの、厳しくも美しい、独特の魅力を持っています。

ワイン産地の中心であるルエダの町自体も、歴史的な雰囲気を残しています。もし日程に余裕があれば、近隣のリベラ・デル・デュエロやトロといった赤ワイン産地と組み合わせて訪れるのも良いでしょう。

さて、肝心の味わいです。ルエダ・ベルデホは、まずその豊かな香りに驚かされるでしょう。グレープフルーツやライムのような爽快な柑橘系の香りに、青リンゴや洋梨、時には白桃のような果実のアロマ、そしてフェンネル(ウイキョウ)や月桂樹の葉を思わせる、清涼感のあるハーブのニュアンスが重なります。

そして、ベルデホの最大の特徴とも言えるのが、フィニッシュに感じられる、ほのかな「苦み」です。これはよく、アーモンドの渋皮に例えられますが、決して不快なものではなく、ワインに複雑さと奥行きを与え、すっきりとした後味をもたらします。

しっかりとした酸味と中程度のボディを持ち、非常にバランスの取れた味わいです。一方、ルエダ・ソーヴィニヨン・ブランは、グレープフルーツやパッションフルーツのようなトロピカルな香り、爽やかな草のニュアンス、そして高い酸味といった、この品種ならではの国際的なスタイルを楽しめます。

ワイン初心者の方にとって、ルエダのベルデホは、例えばソーヴィニヨン・ブランやピノ・グリージョがお好きなら、ぜひ試していただきたい素晴らしい選択肢です。

スペインならではの個性を持ちながら、多くの場合、非常にコストパフォーマンスが高いのも魅力です。その爽やかな酸味とハーブの香りは、食事との相性も抜群で、サラダ、魚介料理、鶏肉料理、野菜料理、そして様々なタパスによく合います。

飲む際は、冷蔵庫でしっかりと冷やすのがおすすめです。ルエダのワインは日本への輸入量も増えており、ワインショップでも見かける機会があるかもしれません。

トロ

スペインワインの力強さを体感できる、もう一つの重要な産地、トロ(Toro)は、カスティーリャ・イ・レオン州、ドゥエロ川の流域に位置し、地理的にはルエダの西、リベラ・デル・デュエロの東に広がっています。

トロは、その濃厚で凝縮感のある赤ワインで知られ、特にこの土地固有のブドウ品種から造られるワインは、長い歴史と確固たる評価を築いてきました。

トロがワイン愛好家を惹きつける理由は、まずその主役となるブドウ品種「ティンタ・デ・トロ」にあります。これはスペインの代表的な黒ブドウ品種テンプラニーリョの、この土地の気候風土に適応したクローン(変異種)です。

トロの夏は非常に暑く乾燥し、冬は厳しい寒さに見舞われますが、ティンタ・デ・トロはこの過酷な環境で見事に生育し、果皮が厚く、色が濃く、糖度とタンニン(渋み)が豊富なブドウとなります。これが、トロワインの力強さ、凝縮感、そして長期熟成能力の源泉となるのです。

トロのワインは歴史的にも高く評価されてきました。中世には王族に愛され、大航海時代にはコロンブスの船にも積まれたと言われています。

また、この地域はフィロキセラ(19世紀末にヨーロッパのブドウ畑を壊滅させた害虫)の被害を比較的受けにくかったため、接ぎ木されていない、樹齢の古いブドウ樹(プレ・フィロキセラ)が多く現存していることも特筆すべき点です。これらの古木から生まれるワインは、格別な深みと複雑さを持っています。

トロで造られるワインの大部分は、ティンタ・デ・トロ種を主体(D.O.規定では最低75%)とした赤ワインです。補助的にガルナッチャ・ティンタ種の使用も認められています。白ワインの生産量はごくわずかですが、ベルデホ種やマルバシア・カステリャーナ種(ドニャ・ブランカとも呼ばれます)などが栽培されています。

トロの赤ワインは、その熟成度合いによっていくつかのカテゴリーに分けられます。リオハやリベラ・デル・デュエロと似た区分ですが、トロのワインはどのカテゴリーにおいても、その土地ならではの力強さを感じさせるでしょう。

「ティント・ロブレ(Tinto Roble)」は、比較的若いうちに楽しまれるスタイルで、「Roble」はオークを意味します。通常、3ヶ月から6ヶ月程度の短い期間オーク樽で熟成され、若々しい果実味を保ちつつ、タンニンが少し和らぎ、樽由来のスパイス感が加わります。トロの入門編として最適です。

「クリアンサ(Crianza)」は、最低2年間熟成され、そのうち少なくとも6ヶ月はオーク樽で熟成されます。ロブレよりも複雑味と骨格が増し、タンニンもより滑らかに溶け込んでいます。

「レセルバ(Reserva)」は、最低3年間の熟成(うち1年以上はオーク樽)を経た、優れたブドウや収穫年から造られる高品質なワインです。凝縮感があり、複雑で、長期熟成のポテンシャルを秘めています。

「グラン・レセルバ(Gran Reserva)」は、最低5年間の熟成(うち2年以上はオーク樽)が義務付けられた最高級クラスです。最高のブドウから、最高の年にのみ造られ、非常にパワフルで複雑、長い熟成を経て真価を発揮します。

トロ地方を訪れるなら、その中心となる歴史的な町、トロ(サモラ県)は必見です。サンタ・マリア・ラ・マヨール参事会教会(コレヒアータ)をはじめとする美しいロマネスク様式の建築物が残り、ドゥエロ川を見下ろす雄大な景色も楽しめます。

「トロ・ワインルート」には、近代的な設備を持つワイナリーから、伝統的な家族経営のボデガまで、様々な醸造所が点在し、見学や試飲を受け入れています。ルエダやリベラ・デル・デュエロといった近隣の産地と組み合わせた周遊も可能です。

では、トロの赤ワインはどのような味わいなのでしょうか。キーワードは「力強さ」「凝縮感」「濃厚さ」です。

色は非常に濃く、ブラックベリーやカシス、ダークプラムのような、熟した、時にはジャムのような黒系果実の香りが豊かに感じられます。

口に含むと、そのフルボディな酒質と、豊富でしっかりとしたタンニン(渋み)に驚くかもしれません。アルコール度数も比較的高くなる傾向があります。

オーク樽での熟成を経たワインには、リコリス(甘草)、カカオ、タバコ、なめし革、黒胡椒のようなスパイスのニュアンスが加わり、より複雑な風味となります。

リオハのエレガントさとは対照的に、より骨太で、リベラ・デル・デュエロのワインともまた異なる、トロならではの重厚な個性が魅力です。

もしあなたが、カベルネ・ソーヴィニヨンやアルゼンチンのマルベックのような、しっかりとした飲みごたえのある赤ワインがお好きなら、トロのワインはきっと気に入るはずです。

その力強さと凝縮感は、料理と合わせることで真価を発揮します。グリルした赤身肉(特に牛肉のステーキ)、バーベキュー、ラム肉のロースト、ジビエの煮込み、濃厚なソースを使った料理、熟成したハードチーズなど、風味の強い、しっかりとした味わいの料理との相性は抜群です。

もし、その力強さに少し不安を感じるなら、まずは「ティント・ロブレ」から試してみてはいかがでしょうか。トロのポテンシャルを感じさせつつも、比較的早い段階から楽しめるように造られています。ワインを味わう際には、コロンブスの時代から続くその長い歴史に思いを馳せるのも一興でしょう。

トロのワインは日本国内の専門的なワインショップでも見つけることができます。ぜひ一度、その力強い味わいを体験し、スペインワインの奥深い世界に触れてみてください。

ビエルソ

スペイン北西部に位置する、近年ますます注目度が高まっている魅力的なワイン産地、ビエルソ(Bierzo)は、山々に囲まれた谷と盆地が特徴で、大西洋からの影響と内陸の高原地帯の気候が交わる、独自のミクロクリマ(微気候)を持っています。

ビエルソは、エレガントな赤ワインと高品質な白ワインで知られ、スペインワインの新たな潮流を感じさせる産地です。

ビエルソが特別な理由は、まずその土地固有のブドウ品種にあります。赤ワインの主役は、間違いなく「メンシア」種です。この黒ブドウは、ビエルソの冷涼な気候と、しばしば急斜面に存在する古いブドウ畑で見事にその個性を発揮し、香り高く、繊細で、エレガントな赤ワインを生み出します。

また、白ワインにおいては、「ゴデーリョ」種が近年目覚ましい品質向上を遂げ、世界的な評価を高めています。この地域は、山々に囲まれた変化に富んだ地形を持ち、特に標高の高い斜面に植えられた古木のブドウ(中には樹齢100年を超えるものも)が、ワインに深みと複雑さをもたらしています。

さらに、ビエルソは、世界的に有名なサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(カミーノ・デ・サンティアゴ)が通る地としても知られ、歴史と文化、そして美しい自然が融合した魅力的な地域です。

ビエルソで栽培されている主要なブドウ品種は、赤ワイン用としては圧倒的に「メンシア」です。D.O.(原産地呼称)の規定では、赤ワインにはメンシアを最低70%使用する必要があります。

補助品種としてガルナッチャ・ティントレラ(アリカンテ・ブーシェ)なども認められています。白ワイン用としては、「ゴデーリョ」が主役であり、その品質と人気は急速に高まっています。その他、ドニャ・ブランカやパロミノといった品種も許可されています。

ビエルソで造られるワインは、赤、白、そして少量のロゼ(ロサード)があります。

赤ワイン、特に「メンシア」から造られるものは、この地域の象徴です。そのスタイルは、スペインの他の地域の力強い赤ワインとは一線を画します。

一般的にはミディアムボディで、非常にアロマティック。チェリーやラズベリーのような赤い果実の香りに、スミレのような華やかな花のニュアンスが重なります。

口に含むと、フレッシュな酸味と、比較的滑らかで洗練されたタンニン(渋み)が感じられます。単にパワフルというよりは、エレガントで、滋味深い味わいが特徴です。

畑によっては、土や、スレート(粘板岩)土壌由来のミネラルのニュアンスが現れることもあります。熟成規定(ロブレ、クリアンサ、レセルバ)もありますが、生産者のスタイルや畑の個性がより重視される傾向にあります。

白ワインでは、「ゴデーリョ」が素晴らしい品質を示します。多くの場合、ミディアムからフルボディで、豊かなテクスチャー(口中での質感)を持っています。

洋梨やりんご、グレープフルーツのような果実味に、白い花やハーブの香りが加わり、ミネラル感が全体を引き締めています。しっかりとした酸味も備えており、シュール・リー(澱の上での熟成)やオーク樽での熟成によって、さらに複雑味と奥行きが増すポテンシャルを持っています。

ビエルソ地方への訪問は、美しい自然と歴史に触れる旅となるでしょう。緑豊かな山々、川(シル川など)が刻む谷、そして点在するブドウ畑が織りなす風景は非常に魅力的です。

サンティアゴ巡礼路を歩く巡礼者たちの姿も、この地域ならではの光景です。中心都市ポンフェラーダには、印象的なテンプル騎士団の城があり、歴史散策も楽しめます。

また、巡礼路上の宿場町として栄えたビジャフランカ・デル・ビエルソも、趣のある美しい町です。ワイナリーは比較的小規模な家族経営のところが多く、テロワール(土地の個性)を大切にした丁寧なワイン造りが行われています。気候はスペイン中央部より冷涼で、雨が多いことも念頭に置いておくと良いでしょう。

もし、ピノ・ノワールやフランス・ロワール地方のカベルネ・フランのような、エレガントで香り高い赤ワインがお好きなら、ビエルソの「メンシア」は素晴らしい発見となるでしょう。

これまでのスペイン赤ワインのイメージ(力強く、濃厚)とは異なる、繊細で飲み心地の良いスタイルを体験できます。「ゴデーリョ」の白ワインは、上質なシャルドネやヴィオニエがお好きな方におすすめです。

豊かな果実味とミネラル感、しっかりとした骨格を兼ね備えています。これらのワインは、地元の料理との相性も抜群です。

特に「ボティーリョ・デル・ビエルソ」と呼ばれる、豚肉の様々な部位を腸詰めにして燻製・乾燥させたこの地方特有の料理は、メンシアと合わせて試す価値があります。その他、ジビエ料理、きのこ、栗、川魚なども良い組み合わせです。

この地域のワインは、リオハやカバほど一般的ではないものの、専門的なワインショップなどで見つけることが可能です。近年、日本でもその品質への注目が高まっています。

ぜひ、エレガントなメンシアや、複雑味のあるゴデーリョを探して、スペインワインの新たな一面を発見してみてください。ビエルソの美しい風景と、土地の個性を映し出すワインの魅力に、きっと心を掴まれるはずです。

ナバーラ

スペイン北部、有名なリオハの北東に位置するナバーラ(Navarra)は、ピレネー山脈の麓から南のエブロ川流域へと広がる、変化に富んだ地形を持つワイン産地です。

毎年7月に開催される「サン・フェルミン祭(牛追い祭り)」で世界的に知られるパンプローナを州都に持つこの地域は、歴史的に高品質なロゼワインで名高い一方、近年では優れた赤ワインや白ワインの産地としても評価を高めています。

ナバーラがワイン愛好家にとって特別な理由は、まずその多様性にあります。北部の山岳地帯は冷涼で雨が多く、大西洋の影響を受ける一方、南部はより乾燥し、温暖な地中海性気候の影響を受けます。

この気候と地形の多様性が、実に幅広いスタイルのワインを生み出す土壌となっているのです。また、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路(カミーノ・デ・サンティアゴ)の一部がナバーラを通過しており、歴史的な修道院や城、美しい村々が点在するなど、文化的な魅力にも溢れています。

ナバーラワインの多様性は、栽培されているブドウ品種の豊富さにも表れています。赤ワイン用ブドウとしては、伝統的にこの地のロゼワイン(ロサード)の主役であった「ガルナッチャ(グルナッシュ)」に加え、現在では最も栽培面積の広い「テンプラニーリョ」が重要です。

さらに、「カベルネ・ソーヴィニヨン」や「メルロー」といった国際品種も広く栽培されており、ナバーラの赤ワインに骨格と複雑味を与えています。

白ワイン用ブドウでは、「シャルドネ」が最も多く栽培されており、この地で素晴らしいワインを生み出しています。その他、ビウラ(マカベオ)やガルナッチャ・ブランカ、そして特に甘口ワインで重要な役割を果たす「モスカテル・デ・グラノ・メヌード(ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン)」などが栽培されています。

この豊かなブドウ品種から、ナバーラでは実に多彩なワインが造られています。

まず、ナバーラの代名詞とも言えるのが「ロサード(Rosado)」、つまりロゼワインです。伝統的にガルナッチャ種を用い、「サングラード(血抜き法/セニエ法)」と呼ばれる、果皮からの色素抽出を短時間で行う製法で造られることが多く、南フランスのプロヴァンス・ロゼのような淡い色合いとは対照的に、鮮やかなピンク色やラズベリー色を呈し、豊かな果実味を持つのが特徴です。

味わいは通常辛口で、イチゴやラズベリーのようなフルーティーな香りと、フレッシュな酸味を持ち、しっかりとした飲みごたえがあります。

次に、「ティント(Tinto)」、赤ワインです。かつてはガルナッチャ主体の軽やかな赤ワインが中心でしたが、近年では品質向上が目覚ましく、多様なスタイルの赤ワインが生産されています。

テンプラニーリョやガルナッチャから造られる、若々しくフルーティーなタイプから、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどをブレンドし、オーク樽で熟成させた、より骨格のしっかりとした、複雑で長期熟成も可能なタイプまで幅広く存在します。熟成期間に応じた「クリアンサ」や「レセルバ」といった表示も用いられています。

「ブランコ(Blanco)」、白ワインも注目度が高まっています。シャルドネ種からは、ステンレスタンクで発酵させたフレッシュなタイプから、オーク樽を用いて発酵・熟成させたリッチで複雑な風味を持つタイプまで造られています。ビウラ種やソーヴィニヨン・ブラン種からは、主に爽やかでアロマティックなスタイルの白ワインが生まれます。

そして忘れてはならないのが、「ドゥルセ(Dulce)」、甘口ワインです。特にモスカテル・デ・グラノ・メヌード種から造られる甘口ワインは評価が高く、遅摘みや貴腐化したブドウを用いて造られ、オレンジの花や蜂蜜、柑橘の皮のような、うっとりするような甘美な香りと味わいを持ちます。

ナバーラ地方への訪問は、ワインだけでなく、文化、歴史、そして美食を堪能できる旅となるでしょう。ピレネー山脈の緑豊かな風景から、南部の半乾燥地帯まで、変化に富んだ自然が迎えてくれます。

パンプローナの活気ある街並みや、サンティアゴ巡礼路沿いの歴史的な町や修道院を訪れるのも魅力的です。ワイナリーも、長い歴史を持つ協同組合から、最新設備を備えたブティックワイナリーまで様々です。

そして、ナバーラはスペイン屈指の美食の地としても知られています。特に、アスパラガスやアーティチョーク、ピーマン(ピキージョ)といった質の高い野菜や、仔羊肉料理は絶品で、地元のワインとの相性は格別です。

まずは、ぜひナバーラ伝統の「ロサード」を試してみてください。一般的な淡い色のロゼとは一味違う、豊かな果実味としっかりとした味わいに驚くはずです。

次に、赤ワインを探求してみましょう。特に、テンプラニーリョにカベルネ・ソーヴィニヨンやメルローをブレンドしたタイプは、品質と価格のバランスに優れているものが多く、スペインワインが国際品種をいかに上手く取り入れているかを感じることができます。

ナバーラの最大の魅力は、その「多様性」にあります。ロゼ、赤、白、甘口と、あらゆるスタイルのワインが揃っているので、きっとあなたの好みに合う一本が見つかるはずです。食事との相性も抜群で、特に地元産の野菜料理やラム肉料理とはぜひ合わせてみてください。

カスティーリャ・ラ・マンチャ

スペイン中央部に広がる広大なワイン産地、カスティーリャ・ラ・マンチャ(Castilla-La Mancha)。

マドリードの南に広がるカスティーリャ・ラ・マンチャ地方は、スペイン中央部の広大な高原地帯(メセタ)に位置します。ここは、セルバンテスの有名な小説「ドン・キホーテ」の舞台として、風車が点在する風景と共に世界中に知られています。

そして、ワインの世界においては、この地域はスペイン最大、そして世界でも最大級のブドウ栽培面積を誇る、まさに「ワインの大地」なのです。歴史的には、大量生産されるバルクワインの供給地としてのイメージが強かったかもしれませんが、近年では目覚ましい品質向上を遂げ、優れたワインが数多く生み出されています。

カスティーリャ・ラ・マンチャのワインを知る上で、まず理解しておきたいのは、その広大さと気候です。非常に広大なこの地域は、夏は極めて暑く乾燥し、冬は寒さが厳しい、典型的な大陸性気候です。

年間を通じて日照時間が長く、雨が少ないこの厳しい環境が、ワインの性格を形作っています。そして、この土地の個性を語る上で欠かせないのが、固有のブドウ品種です。

白ブドウ品種では、「アイレン」が圧倒的な主役です。実はこのアイレン、世界で最も栽培面積の広いブドウ品種の一つなのです。暑さと乾燥に非常に強く、この地方の過酷な環境に適応してきました。

伝統的には、主にブランデーの原料や、大量生産されるテーブルワイン用に使われてきましたが、近年では醸造技術の向上により、そのポテンシャルが見直され、フレッシュでフルーティーな、モダンな辛口白ワインとしても注目されています。その他、ベルデホやソーヴィニヨン・ブランといった品種も導入され、爽やかな白ワインを生み出しています。

赤ワイン用ブドウ品種では、「テンプラニーリョ」(この地域では「センシベル」とも呼ばれます)が、高品質なワインを生み出す最も重要な品種として栽培されています。

リオハやリベラ・デル・デュエロでお馴染みのテンプラニーリョですが、ラ・マンチャの太陽をたっぷりと浴びて育ったセンシベルは、熟した果実味と、比較的穏やかなタンニン(渋み)を持つ、親しみやすいスタイルのワインとなることが多いです。

その他、ガルナッチャやボバルといったスペイン固有品種に加え、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーといった国際品種も広く栽培されており、ブレンドに用いられることでワインに骨格や複雑味を与えています。

この広大な地域では、実に多様なワインが生産されています。白ワインは、伝統的なシンプルなスタイルのアイレンに加え、近年ではアイレン種やベルデホ種、ソーヴィニヨン・ブラン種などから造られる、フレッシュでアロマティックな辛口が人気を集めています。

赤ワインは、センシベル(テンプラニーリョ)やガルナッチャを用いた、若々しくフルーティーで飲みやすいタイプから、国際品種などをブレンドし、オーク樽で熟成させた「クリアンサ」や「レセルバ」といった、より骨格のある複雑な味わいのタイプまで、幅広い選択肢があります。

ロゼワインも、主にセンシベルやガルナッチャから、フレッシュでフルーティーなスタイルが造られています。

カスティーリャ・ラ・マンチャ地方には、「ラ・マンチャDO」や「バルデペーニャスDO」といったいくつかの原産地呼称(DO)が存在しますが、地域全体をカバーする広域の地域名称「ビノ・デ・ラ・ティエラ・デ・カスティーリャ(VT Castilla)」も重要です。

このVT Castillaのラベルが付いたワインは、しばしば非常に優れたコストパフォーマンスを発揮します。また、近年では、特に品質の高いワインを生み出す単一畑(エステート)に与えられる、スペインワインの最高格付け「ビノ・デ・パゴ(VP)」に認定されるワイナリーも増えており、この地域の品質向上への意欲を示しています。

カスティーリャ・ラ・マンチャへの旅は、ドン・キホーテの世界に触れる文化的な体験となるでしょう。広大なラ・マンチャの平原に立つ風車の姿は象徴的で、「ドン・キホーテ・ルート」を辿れば、小説ゆかりの地を訪れることができます。

近隣には、世界遺産の古都トレドや、「宙吊りの家」で有名なクエンカといった魅力的な都市もあります(これらは厳密には主要なワインDOの外ですが、地域観光の拠点となります)。

リオハのような華やかなワイナリーは少ないかもしれませんが、近代的な設備を導入し、品質向上に力を入れると共に、訪問者を温かく迎え入れるワイナリーが増えています。夏の暑さは厳しいですが、スペインワインの生産規模の大きさと、その日常的な側面を垣間見ることができるでしょう。

まず、この地域はスペインワインの中でも、特に「コストパフォーマンス」に優れたワインの宝庫であることを覚えておいてください。

日常的に楽しめる、手頃な価格でありながら質の高い赤ワインや白ワインが数多く見つかります。

白ワインを選ぶなら、かつてのイメージにとらわれず、ぜひモダンなスタイルの「アイレン」を試してみてください。驚くほどフレッシュでクリーンな味わいに出会えるかもしれません。

赤ワインでは、「センシベル(テンプラニーリョ)」と表示されたものが、安定した品質と親しみやすい味わいで、まず間違いのない選択です。「VT Castilla」の表示を探すのも、掘り出し物を見つける良い方法です。この地域のワインは、ドン・キホーテの物語と共に楽しむのも一興でしょう。

日本にいながらでも、カスティーリャ・ラ・マンチャのワインの多くは、比較的手頃な価格でスーパーマーケットやワインショップで見つけることができるはずです。ぜひ、この広大なワイン産地が生み出す、日常に寄り添うスペインワインの魅力に触れてみてください。

まとめ

スペインワインがなぜ美味しいのか――その秘密は、各地の多様な自然環境と伝統、そして革新の融合にあります。リオハやリベラ・デル・ドゥエロでは、山々に守られた気候と複雑な土壌が、力強くもエレガントな赤ワインを生み出します。

プリオラートでは、火山性のリコレリャ土壌と手作業による伝統的な栽培が、圧倒的なミネラル感と深い味わいのワインを生み出し、世界中の愛好家を魅了しています。

リアス・バイシャスやルエダといった北西部の産地では、冷涼な海洋性気候とミネラル豊かな土壌が、アルバリーニョやベルデホといった品種の爽やかで香り高い白ワインを育てています。ヘレスでは、三千年の歴史と独自のソレラ製法が、世界に唯一無二のシェリーを生み出し、甘口から辛口まで幅広いスタイルを楽しめます。

ペネデスはカヴァの故郷として知られ、標高や土壌の多様性がスパークリングから赤・白ワインまで幅広い味わいを可能にしています。

トロやカスティーリャ・ラ・マンチャは、厳しい大陸性気候と古木が、力強く個性的な赤ワインを生み出します。ビエルソやナバーラでは、ミネラル豊かな土壌と多様な気候が、フレッシュでミネラリーな赤・白ワインやロゼを育てています。

このように、スペインの11の代表的なワイン産地は、それぞれが独自のテロワールと伝統を持ち、品種や製法の多様性が味わいの幅を広げています。自然の恵みと人の情熱、そして革新への挑戦が、スペインワインを世界中で愛される美味しさへと導いているのです。

EMEA(欧州・中東)担当 at 

アンティークバイヤーのみさきです。好きな言葉は「百聞は一見に如かず」



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